劣等感
私の母はよく怒る人だった。
そして、よく叩く人だった。
母親のいうことを聞かないと、すぐ手が飛んできた。
そもそも私は小さなころから頑固で、なかなか言うことを聞かない子供だったらしい。
だから叩かれるのはしょっちゅうだった。
頭。時には顔。
叩く方の手も痛いんだよ!と逆切れまでされていた。
妹は叩かれる私を見て、いつもハラハラしていたという。
母は理系で、理系至上主義者だった。
私は父に似たのか、国語の成績はとてもよかったが、理系科目は苦手だった。
母は、自分ができることは当然自分の子供もできると思っていたようだ。
自分(理系)の子供が、理系科目が苦手で文系科目が得意、という事実が受け入れられなかったのだろう。私の国語力は最後までスルーし続けられた。
それだけでなく、たとえ算数や数学のテストであっても
90点をとっても95点をとっても、足りない方の10点、5点を責める人だった。
とれた9割は無視、とれなかった1割のことを毎回ねちねちと言われた。
どうして検算しないのよ。
どうしてあんたはいつもおっちょこちょいなのよ。
どうしてあんたは。
私は何も言い返せない。
なぜ間違ったのか。
それは、間違ったから間違ったとしか思えなかった。
私は本が好きで好きで、小学校6年の一年間は学年で一番本を借りた生徒だった。
毎日図書館で2冊ずつ借りても読み足りなくて、
テスト用紙に書かれた文章ですら、初見の物だと喜んで読んでいたし
新学期に教科書が配られると、すぐに全体に目を通すぐらい活字に飢えていた。
(特に読み物として面白かったのは、国語と道徳の教科書だった)
しかし母にとって、本は私をダメにするものという認識だった。
私は本を読みだすと没頭してしまい、他の事をやらなくなってしまうからだ。
そして私は本を取り上げられた。
それからは、机に向かい勉強しているふりをして、こっそり読むこともあったが
中学校の図書館が合わなかったせいもあって、読書量は極端に減った。
漫画は最初から禁止だった。
漫画は馬鹿になるから、というのが母の持論だった。
(「馬鹿になる」というのが一つのキーワードで、コーヒーも馬鹿になるから飲ませてもらえなかった)
隠れてこっそり買った漫画が母親にばれて、
叱られたことも、破かれたことも何度もある。
子供の私があきれるほど、感情的に、びりびりにされて、部屋中に撒かれていた。
大人になって、子供がいてもおかしくない年齢になって、改めて思う。
なぜ、減点方法をとったのかと。
なぜ、私から得意(本)をとりあげたのかと。
なぜ、親と子供が同じ能力を持つと思っていたのかと。